季語は四季折々の風情を愛でる日本文化の象徴です。季語に含められる動植物を中心に、写真付きの俳句歳時記風にまとめた「季語シリーズ」、今回は冬の第十二回で、もはや日本を代表する俳人・詩人と言っても差し支えないと思われる佐藤文香さんの句を多く取り上げました。なお、猫凡という俳号で自作の句を入れています。
【冬日】
俳句の冬日は最低気温とは無関係で、冬の日差しのことです。弱々しいけれど有難いもの。
冬日さす絵手紙展のポスターに 佐藤文香
冬日温し甚兵衛鮫の沈んだ日 猫凡
【雪催】
今にも雪が降り出しそうな空模様。
湯帰りや灯ともしころの雪もよひ 永井荷風
山並の圧延されし雪催 猫凡
【落葉】
落葉樹が葉を落とす様、また落ちゆく葉や散り敷いた葉。無常感、寂寥感、巡りゆく生命感。
リフティング落葉に次の落葉くる 佐藤文香
落ち葉降る塀の上から猫が降る 猫凡
【冬蝗】
冬でも生き残っているいなごのことで、本来は卵で越冬する種を指すのでしょう。写真は成虫で越冬するツチイナゴです。
冬いなご一つ飛んではころぶなり 高橋蒼々子
何もせず忍の時あり冬蝗 猫凡
【冬薔薇】
ふゆばら、とも、ふゆそうび、とも読めます。花の少ない季節に咲いている様子は凛として貴い。
冬薔薇の白の奥なる暗さかな 菱田瞳子
冬薔薇棺の中の硬き頬 猫凡
【冬の鳥】
冬に見かける鳥。餌の少ない冬場は庭先などに来る鳥が多く、バードウォッチングに最適です。寒禽(かんきん)、かじけ鳥、とも。
寒禽の嘴をひらきて声のなき 長谷川櫂
冬鳥の足跡波も消し惜しみ 猫凡
【冬怒涛】
冬の荒波。厳しさ、荒々しさ。荒涼とした寂寥。
冬怒濤噛む岩々に神在し 大橋敦子
冬怒涛吠えて叫んではい終わり 猫凡
【水鳥】
水に浮かぶ鳥。そうして眠っている鳥は浮寝鳥、「憂き寝」をかけて寂しい独寝の象徴とされています。
水鳥よまなざしに手を添へてやる 佐藤文香
浮寝鳥色消えてゆき山水画 猫凡
【冬紅葉】
冬に入っても残っている紅葉。枯れ落ちた林の中、一際鮮やかです。
冬紅葉天蓋にして鯉の池 加藤亀女
冬紅葉俯きて人通り過ぎ 猫凡
【枯野】
枯れ果てた冬の野原。それが美しく味わい深いと感じるのが日本の美意識でしょう。
枯野みち諒子は靴紐が結べない 佐藤文香
独り枯野我亡き明日に光あれ 猫凡
【山茶花】
ツバキによく似た常緑樹ですが、椿と異なり花弁が一枚ずつ散ります。
切株へ散る山茶花や去年今年 佐藤文香
さざんくわやしも焼けもたき火もとほく 猫凡
【寒暮】
冬の夕暮れ。一気に暗く寒くなる中、街の灯りがなおさら貴重に感じるものです。
斧一丁寒暮のひかりあてて買ふ 福田甲子雄
藍は天蓋大地は褥我が寒暮 猫凡
【寒釣】
冬の寒さの中で行う釣り。枯蘆のそばに座して鮒や鯉を釣るイメージですが、私の場合はもっぱらメバルということになります。
寒釣の釣るゝ気配のさらになし 上沢寛芳
寒釣や竿撓う度あたたまり 猫凡
【霰(あられ)】
直径5mm未満の氷の粒が降る気象現象。突然バラバラッと降ってパタリと止むことが多いものです。
何か降ると言ひしとき止む宵霰 山口青邨
あら霰あら炊き熱燗荒走り 猫凡
霰でさらに。
いざ子ども走り歩かん玉霰 芭蕉
ポプコーン貪り食うて外あられ 猫凡
【止め市(とめいち)】
市場におけるその年の最後の取引(せり)です。意外なことに歳時記未収載。当然冬の季語だと思います。今年の下関合同花市場の止め市は12月27日でした。
止め市や飛び交ふ声の勢や良し 猫凡
【年越蕎麦】
月末に蕎麦を食す「晦日(みそか)蕎麦」が大晦日だけに受け継がれたもの。縁起が良いとされる理由は、蕎麦は切れやすいので一年の厄災を切り落とすとか、細長いので長寿に繋がるとか諸説あり。
なにはさてあと幾たびの晦日蕎麦 小沢昭一
平凡の美味ありがたや晦日そば 猫凡
【初競】
新年最初に開かれるセリ。1月4日あるいは5日のことが多いようです。お祝い気分で高値が付けられやすく、大声が飛び交って活気にあふれます。
ぽんぽんに脹らめる河豚初市に 柳澤和子
河豚怒り競人怒鳴り初市場 猫凡
【蝋梅】
蝋細工のように繊細な美しさを見せる花。昨今の下関では正月に開花することが珍しくありません。その香り、いと清々し。
鳥声に蠟梅の香の至りけり 佐藤文香
蠟梅香側坐核とかドーパミン 猫凡
【冬の虹】
時雨の後に現れる虹。朧に見えて、すっと消えてしまう、その儚さが貴い。
雪晴の虹の切身を所望せり 佐藤文香
パレスチナ停戦合意冬の虹 猫凡
如何でしたか?季語シリーズは能う限り続けてゆくつもりです。次回もお楽しみに。
貴重な貴作品をまとめに収録くださり、ありがとうございます。
他のシリーズも拝読させていただきます💓