以前、詩人になりたい
詩人として死にたいと
願った時期がある
その時には何も書きはしなかったが
その10年ほど前に一度
詩集をまとめていた
最近、「見たい!」とのリクエストが
フォロワーさんの投稿にあり、
表現方法を考えていた
こんな時代
なんだってアリ
で、
ここに小出しにすることに
詩はその詩集のラスト近くから始めてみる
その前夜
寝つきは悪い方じゃなかった
何年か前までは
疲れててもあまり疲れて無くても
ワン・ツー・スリーで はいさよなら!
気がつけば起きている
何時でも何時までも
こてこてに疲れ果てて
それでも得体の知れないものを抱えて
カーテンの合わせ目が少し開いている
ちらちらと夜の明かりが明滅する
換気扇の低いうなりと
遠くのクラクションの断続
一年が速く過ぎるようになってから一体どれぐらいの年数を経たのだろう
このままなら確実にイケそうなくらいやばい速度に感じる
疲れがすぐに現れなくなったりなかなか消えなくなったり
変に納得できる変化が緩やかに周りから囲い込む
夢をなくしたわけじゃない
夢を見たいわけでもない
夢見心地で暮らしていても
根っこの部分はうつつと地続き
似たような無為を重ねても
一つ一つ違う意味を見出し
きちんと棚に整理して
前進の錯覚に自分を鼓舞する
今、時機(とき)は臨界目指し
確実に刻まれている
その「X」が
見えるところまで
そして
その物語は再び始まろうとしていた
「SONOZENYA」 HIMURO、TAKATSUKI Jun.14th '06
第一日目
過ぎ去って思い出そうとしても
それは不可能に近い事
その時の濃やかな時間の流れの中での
ひとつひとつのやりとりはすべて
過ぎ去って思い出したとしても
それは真実に遠いもの
後付けでの修正された記憶の中での
創作物たるレプリカント
けれどもその日のことは
とてもくっきりと印象に残っていて
突然のことにしては意外なくらい
予感が、と言うより確信があった
暗がりの中では色彩は消滅する
けれども強烈な光を浴びても
やはり色彩は消滅するらしい
中庸しか捉えられないこの感覚
水平線はもとより地平線の一部分すら
しばらく見ていない
目線すらあまり動いてもいない
しかし根拠の無い確信が深まる時
動きが始まる
カーテンの隙間は光の明滅を早め
しだいに拡大する光とともに
それはやって来た
驚く事も無く
冷静に受け止められたのは
心のどこかで
予想していた事だからかもしれない
そしてお互いに
「やあ」
というしかない雰囲気の中
その作業が始まった
2006、6、15
二日目
湖沼地帯の北辺に聳える険阻な山塊
疎らな木立の下草は露でしっとりと濡れ
行き交う鳥の様様な鳴き声を聞きながら
ゆっくりと見下ろしていたときの事
側道の横を暗渠がすり抜ける
微かに流れの音を響かせ
神社の鳥居に似たマークは
三本足の鴉と重なって
地色の淡い黄色が
薄れたようになっている上に
くっきりと黒い翳を落とす
午後二時
煙棚引く人家のはずれの工場と
その奥に据え付けられたような発電所の
互いのケーブルの交差するあたり
その標識はぽつんと立っていた
続く
2006、6,16
三日目
じりじりと照りつける陽光
国道脇に規則正しく並んだ街灯は
昼間その存在感を消失し
ただ徒に空を区切る
ありきたりの噴水でさえ
日時計の花壇と相俟って
大通り広場の顔貌となり
和みの空間を拡げる
闇雲に歩いているだけでも
何がしかのモノが目に飛び込んでくる
それをどう捉えようと自由だろうし
そこに意味を見出すのも通過するのも
やはり自由
目標もなく歩き続けて大通りから裏通りへ
裏通りから更に路地を抜ける
広い通りからどんどん狭い道への移動
両脇の建物に手荷物が触れるほどに
建物は其処彼処 植物の侵食と出会い
戸惑いながら朽ち果てて行くのか
そんな事にはお構い無しの猫たちに
格好のスペースを提供する
目に焼きつくものと心に残るものが
必ずしも一致する訳ではないけれど
覚えようとしたものも忘れてしまう反面
突然甦る思いがけない記憶
少し掠れた声で
呟くように低く歌うように
伝えたものは
寂しげな笑顔の陰で、
見えない
2006、6,17
四日目
視覚による記憶・聴覚の記憶
味覚による記憶・触覚の記憶
そして嗅覚による記憶
感覚機能は何を伝え何を指し示すのかはおいても
「とりわけ嗅覚記憶、におい・香りの記憶はいつまでも残るものである」
と、ある本で学者が唱えた
197X年 夏 極東の大都市のターミナル駅
最大不快指数とともに人ごみを泳ぐようにすり抜けていた時、
その時、確かに海の匂いがしてビルに区切られた空を見上げた
その感覚は未だに体の中のどこかに消去されずに残った
一つのメモリーデータ
懸命にバックアップを取ろうとしても
膨大な新着情報にかき消されていく数多のメモリーたちを尻目に鮮明に保存されている
そしてまた別の時
隣にいた(はずの)おまえの横顔すら思い浮かべ辛いのに
浮遊する微かな薔薇に似た香りは
やはり鮮明に記憶と胸を焦がす
2006、6,18
五日目
夜の道を歩いている記憶
昼間の国道を歩いている記憶
早朝の駅前を歩いている記憶
まず浮かんでくるのはどれか
一人で歩いている記憶
二人で歩いている記憶
大勢で歩いている記憶
どれが真っ先にくるか
いつか映画で観たワンシーンが奥の方まで沈み込んで
自分の記憶と融合したような奇妙な感覚がある
また いつか見た夢の情景の中に新たに足を踏み入れて
既視感に一瞬眩む事も
「情景」とはよく言ったものだ
心は景物に投影し拡大・拡散する
風景は時間・空間の隔てを曖昧に融解し
本心に回答を迫る
してみれば自己を取り巻く情景の激しい揺れ動きは
いったい何を意味するものかがプロセス抜きで
解き明かされていくのだろうか
残された時間はあと少し
生を燃焼し続けるよだかは死に向かって驀進し
文字通りの東奔西走のあと星になる
詩と視と死そして師
もう一度会いたい
2006、6,19
六日目
奇跡はこの世にあるのだろうか
答えは簡単
無数に存在する
少なくとも自分をとりまく
かつてと今と未来に
数え切れぬくらいに
当たり前すぎて気付かない事
ちょうど空気や水や陽光のように
日ごろ意識する事も無いもの
それら一つでも失った時の事を
想像してみる
おそらく耐えられはすまい
衝撃が走るその前に
どれだけシミュレーションしても
耐性があがるとは思えない
心の準備、否
何度も死線を超えたのは
無心の前進から
捨てる事も拾う事も
同義語に近く
そのどちらでもない選択肢を選ぼう
今、まだ生き続けている間を
奇跡の瞬間の連続を
縫うようにして奔る
まもなく次の世界が見える
新しい世界
新しい奇跡
いよいよ もうすぐに
2006、6,20
七日目
臆面も無く人前に立つようになって何十年になる
ライトの明かりに少し目を細めながらうつむき加減
MCの尻上がりの調子を更に大きく上回る気合で
のっけから全開!飛ばしていく 「本番」だから
人は口では「そのプロセスこそが大事」というけれど
誰もそんな事を心から思ってはいない
「生」の瞬間はそれこそ無数にあるけれど
本番だけはそうそう有るもんじゃない
客は本番見るため時間と金を割いて来る
それに応える自分の中のモラルとしての義務
今を削る 出来得る限り
先など考えずに 今を走る
抱え上げたお前の身体を
しっかりと支えるようにして
決して落としはしない
しがみついてろよ!
嵐が来れば喜んで迎え撃とう
それが寒さの中なら魂を燃やそう
前へ前へ前へ 出続ける限り
決して錆びはしない
光は必ず射してくる
けれど 待っている間がもどかしい
なれば 光を自分から
信じていれば必ず内から閃光!
誰にも踊れないダンスにのせて
その時々で時空を揺らそう
2006、6,21
最終日
作業は一通りの終止符を見た
断続のリエゾンと不断のクリシェ
とても自然に語ることの困難は
かなり不自然な文字の説得か
カーテンの隙間を視野の端で
捕らえるともなくとらえている
微かに唸るような可聴範囲外の振動
やはり微かに明滅し交錯する淡い光
あなたはどこから来てどこへ行く?
あなたは一体何をする人?
あなたの求めるものと恐れるものは一体何?
あなたはどこから来てどこへ行こうとしている?
答えをすぐには求められていないらしいが
即答でも一生かかっても
多分同じ答えになると思う
さようなら!
ありがとう!
ありがとう・・
さようなら・・・
しだいに声が姿形が薄れて消えていく・・・
もう目も見えないし耳もほとんど聞こえない
そんな状態になっても なおくっきりと
残っているだろう物語のプレーヤーたちに
心からの賞賛と懺悔と大きな感謝を贈ろう
まわりを取り囲むすべてのすべての人たち
偉大な物語のプレイヤーたち
自分の身のまわりに かつて、今、そして未来に「居た」
すべての大きな大きな心の支えに
さいごまでおつきあいいただきましてありがとうございます
多謝
「最終日」
OSA.JAP. 2006.6,21
写真と言葉のコラボ成功してますね。新作楽しませていただきました。ありがとうございます。🙇🏻♀️
実は、さっき一番新しいのから一つずつ見てしまいました。😅