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さすらいのボタニスト、ヤガメです。こんにちは。
夏の庭先に咲く、涼しげな植物であるアサガオ。
このアサガオ、実は日本にはかなり古い時代に、
外国から薬として伝来した植物なのは、あまり知られていませんね。
アサガオが突然化けたのは、江戸時代のこと。
アサガオは単なる薬用植物から、
日本が世界に誇れる華麗な園芸植物に変貌を遂げるのです。
●夏の風物詩アサガオ
近頃では、夏の室内の暑さをしのぐ、グリーンカーテンとしても親しまれるアサガオ。
もとは「あんどん仕立て」と呼ばれる仕立て方が一般的で、
こんな風に、店先に並べられている様子を見るにつけ、「夏が来たなぁ」などと思ったりします。
●外来植物アサガオ
このアサガオ、実は日本にはかなり古い時代に伝来している
外来の植物ということは、あまり知られていませんね。
原産国は、東南アジアともアフリカとも言われていますが、はっきりしていません。
奈良期もしくは平安期に、花を見るためではなく、薬として中国から日本に伝来したようです。
その後細々とアサガオは、薬用植物として日本国内で維持されます。
●江戸時代に突然……
アサガオが突然化けたのは、江戸時代のこと。
徳川氏による強固な政権が樹立し、日本は260年以上の長い間、大きな戦争がなく太平の世が続きます。
そんな中、さまざまな園芸文化が花開いたことを、ご存じの方も多いと思います。
ナンテン、マツバラン、フウランなどなど、江戸時代に始まった園芸は数多くあります。
江戸時代に、アサガオは単なる薬用植物から、日本が世界に誇れる華麗な園芸植物に変貌を遂げるのです。
●ブームは2度
アサガオの江戸期のブームは、文化・文政年間(1804年-1830年)と、
嘉永・安政年間(1848年-1860年)の2度にわたって起きました。
園芸の世界では、時代を経るに従って、珍しい植物を珍重するようになっていきました。
おなじ植物の中でも、葉や花が変わった姿のものが注目を集め、
「奇品」と呼ばれて流行しました。
そのひとつがアサガオの奇品、「変化アサガオ」です。
●奇品、変化アサガオ
それぞれの時代に鑑賞されていたアサガオは、図譜として今日にその花様が伝えられていて、今日の私たちもその花様を知ることができます。
国立歴史民俗博物館(千葉県佐倉市)にも、変化アサガオと関連する歴史資料が収集されています。
同博物館の歴史系総合誌「歴博」第113号に、その資料が紹介されています。
ウェブサイトでも、その一部を見ることができます。
個人的感想ですが、文化・文政年間のアサガオは「まぁ、ありそうだね」という、
アサガオらしさを感じるのです。
たとえば、大輪になり……
本来アサガオの花弁にある筋
この筋のことを、曜(よう)といいますが、
通常5本だったものが、6本になっていたり……
やや派手なものになると、花弁に微妙な切れ込みが入っていたり……と、
そんな程度の変異なのです。
多くの図譜は、多色刷りでカラー版なのが興味深く、
走り書きで、「藩邸のゴミ捨て場から拾った」などという、
書き込みがあったりするのも、またおもしろいのです。
ところが嘉永・安永年間になると、そのアサガオの花様が、
格段に派手……いや、わけがわからなくなってしまうのです。
花の中からキノコのような形をした花弁が飛び出して来たり、
ナデシコのように花弁が細くなっていたり、
牡丹のようにものすごい枚数の花弁が、花の中から湧き出るように咲いていたり……。
もはやアサガオに見えません。
●翌年も咲かせるために……
これはすべて、突然変異によって生まれた個体で、遺伝性があります。
注目したいのは、どんな朝顔だろうが、一年草だということ。
どんなに奇抜な花が咲こうが、一年で枯れてしまうのです。
さらに、八重咲きのように生殖器官の中枢がおかしくなっている個体は、種子を結ぶこともありません。
どうやってこの変異を翌年へ残すのでしょう?
実は、変化花が咲くものは「出物」と呼ばれ、区別して栽培するのです。
そしてその出物の兄弟苗で、標準花を咲かせる個体を育てて、そのタネを採ってまく、というわけです。
そのため、一つの変異を残すのに数株の朝顔を栽培しなければならない、ということになります。
その手間たるやいかばかりだったかと、ただただ呆れる……いや脱帽するばかりです。
●江戸人は、メンデルが発見する前に……
G.J. Mendel(1822年- 1884)という人物をご存じでしょうか。
そう、あの遺伝学の祖メンデルです。
彼によって遺伝法則が世間に報告されたのは1865年のことです。
この発見以前に、江戸時代の日本人は、
「突然変異は遺伝する」ということを経験的に知っていた、ということになります。
●現在でも……
変化アサガオは、夏になると、博物館や植物園などで展示会が催されます。
ぜひ実物をご覧いただきたいものです。
そして、その奇抜な江戸文化をご堪能いただければと思います。
前述の、国立歴史民俗博物館では、2016年7月26(火)~9月11日(日)に
くらしの植物苑特別企画「伝統の朝顔」が開催されます。
なお、変化朝顔についてはその変異の遺伝・発言のメカニズムが学術的にも丁寧に調べられており、それについて紹介しているサイトもあります。
そのひとつが、九州大学の「アサガオホームページ」。
アサガオの学術的な研究をはじめ、さまざまな情報の提供を行っています。
変化アサガオの写真も紹介されていて、
まるでペチュニアのようなアサガオや……
もはや何の花だかよくわからないようなアサガオが、
たくさん並んでいます。
変化朝顔に興味を持たれた方は、ご参照いただければ幸いです。
フローリスト編集部