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sora の物語の一覧

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so.ra
🌸マーガレットの咲く道で🌸   その8 いつも素敵な花を見せていただいて、有り難うございます。雨で、花が折れないようにと息子が心配して、傘をささせていただきました。勝手なことをして申し訳ありません。 (母) ぼく、このはながすごくだいすき! おはなのみちが、すごくすき! いつもありがとう。 また、おはなをさかせてね。 ぼくのかさは、おはなにあげるよ。 あめにぬれないように、おじいさんがさしてもいいよ。じゃあ、げんきでね。(こうた) 傘には『たなかこうた』と名前が書かれていた。そして、添えられていた手紙。 思いがけない花への思いやりと、優しい手紙。その手紙は亡くなった娘からの手紙のようにも思えて、おじいさんの心を沈ませていた思いが涙のなって流れ落ちて、不思議と心が軽くなっていくように思えた。悲しみで塞ぎ混んでいた毎日、しばらく忘れていた暖かい気持ちに触れて、娘の笑顔が心に浮かんで、頑張れ!って言われているような気がしたのだった。 こうたくんか。 大好きってことばがこんなに嬉しい言葉だったとは。花を育てる喜びを、いつのまにか忘れていたよ。すまない。これからは、大切にしていくよ。 おじいさんは、涙をぬぐいながら、手紙を大切に畳むと仏壇にそなえた。 それからしばらくして、入院していたおばあさんが亡くなった。亡くなる数日前に、おじいさんはおばあさんと約束をした。 🌸
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so.ra
🌸マーガレットの咲く道で🌸   その7 病気のお母さんに頼まれて、お父さんがマーガレットの花の世話をするようになった。朝の子供たちの登校も見守るようになった。けれども、お父さんは、日に日に病気が悪くなるお母さんの心配で、心配でたまらなかった。 可愛い娘はもういない。あんなに元気だった妻も、重い病にかかってしまい、もしかしたらひとりぼっちになってしまうかもしれない。そんなことを考えては涙がこぼれそうになる。学校へいく可愛い子供らの姿を見送っていても、亡くなった我が子が思い出されて泣きそうになる。そんな気持ちを隠そうと、咳払いをしてみたり、ふん!と言ってみたり。 お父さんは、以前のように、花に話かけることもなくなり、水をあげていてもどこか上の空だった。 その朝は、激しい雨が降っていた。お父さんは、風邪ぎみで体調も悪く、今日は雨だから水やりは要らないだろうと外に出ることもなかった。 その朝、マーガレットの花壇の前を、男の子がお母さんと通りかかった。 お母さん、可愛いね。 たくさん咲いてて綺麗だね。 何だか嬉しくなってくるね。 雨だけど、みんな咲いてて、笑ってるみたいだ。 僕ね、今度生まれてくるときはこんな花になりたいなぁ。こんな花になったら、お母さん僕を見つけてくれる? もちろんよ。きっと見つけるわ。そういって、お母さんは男の子の手をぎゅっと握った。 そんな話をしながら、ふと見てみると、強い風雨で折れてしまった花が何本かあった。 お母さん、大変だ! こんなに折れちゃってるよ。 もうだめになっちゃう? そうだ!。僕の傘をお花にさしてあげようよ。 ねえ、お母さんいいでしょう? 男の子の申し出に、家の人の許可をもらおうと探したが、人の気配もなく、男の子のビニール傘を、折れた花を守るようにフェンスに結ぶと、小さなメモを添えて二人はその場をあとにした。 翌日、雨がやんで外に出てみるとマーガレットに傘がさしかかられていた。お陰で強い雨風の中も花は元気に咲いていた。 どなたか知らないが、ありがとう。悲しみで心が一杯で、花のことなぞ上の空だった。大事にしていた花なのに。 食卓に飾られた小さなマーガレットの花、そしてかさと一緒に結ばれていた一枚の手紙。 おじいさんは手紙を手にして泣いていた。 🌸
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so.ra
🌸マーガレットの咲く道で🌸   その6 その日から、お母さんはマーガレットを育て始めた。たくさん本を買って勉強もして、マーガレットは冬を越えてすくすくと育っていった。 お父さんとお母さんは相談して、家の前に花壇を作り、マーガレットを挿し木で増やし、見事な花壇に育った。他にもたくさんの花を植え、花壇はいつもたくさんの花で溢れていた。  道を通る人たちが、花の美しさに目を止めてお母さんに話しかけ、やがて子供たちも挨拶をしてくれるようになり、二人の毎日は少しずつ明るさを取り戻していった。 『ねぇあなた。あの子の残してくれた花のご縁で、たくさんの人が私たちに声をかけてくれるようになって、子供たちともお話ができるようになったわね。有り難いわねぇ。』 本当にその通りだなぁ、お父さんも目を細めて、花壇のマーガレットを愛しそうに眺めるのだった。 登下校の子供たちを見送るようになり、子供たちもいろんな話をしてくれるようになり、いつしかそれが二人の楽しみになっていった。 雨の日も風の日も雪の日も嵐の日も、お母さんは子供たちの見送りをした。 『今日はひどい嵐だ。風邪をひいたら大変だから、休んだらどうだろう』 時々、お父さんが声をかける。    お母さんは『こんな日だからこそ、見送りが大切なのよ』 と笑いながら答える。 毎日そうやって、子供たちを見送って何年も時が過ぎた。 そんなある年、お母さんに重い病気が見つかった。入院したお母さんの代わりに、お父さんが花の世話をしたり、子供たちの見送りをするようになった。 🌸
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so.ra
🌸マーガレットの咲く道で🌸   その5 うなずきながら黙って話を聞いていた用務員さんが、やがて口を開いた。 良かったら一緒に来てくれませんか? 歩き出した用務員さんに連れられていったのは、グランド脇の斜面に広がる花畑だった。そこには一面に見事なマーガレットが咲いていた。 綺麗でしょう。お嬢さんと僕で作った夢の花壇なんです。いつか、手伝いに来てくれたお嬢さんの前で、咲き終わったマーガレットを捨てようとしたら、捨てるならちょうだいって言うんです。 どうするのって聞くと、お花畑を作るのって。 お嬢さんは『大人なのに知らないの?花はね終わるときは、また始まるときなのよ』って。 私が、誰かに聞いたの?って尋ねると『ちゃんと、花を見てたらわからでしょう』って、言われちゃいまして、私の方が教えられましたよ。 そして、一面に咲いたハルジオンの秘密の花畑の話をしてくれましてね。そんな花畑を作ろうと、いろいろ校内の場所を探しまして、ここになら誰にも掘り返されずに花畑ができねと、二人で育て始めたんです。  去年、植えた花がこんなに立派になりましてね。お嬢さんは、いつかこの花畑をお母さんに見せるんだと、それは楽しみにされてました。 事故にあう数日前に、もうすぐ誕生日のお母さんにこの花をあげたいなと、それは楽しみに毎日来て世話をされてました。花が満開になったら、お母さんに花束にしてあげてもいい?と聞かれまして、一緒に花束を作る約束もしてたんですが。  あの前日に一輪咲きそうな花を見つけて、『咲くかな、咲くかな?』と私に何度も聞いてこられてました。 あの日、きっと、登校してからこの花畑を見に来たんじゃないかなと思うんです。そして、一輪開いた花を見つけて、嬉しくて大急ぎでお母さんの誕生日のプレゼントしようと家に引き返したんじゃないかなと。  私がこんな風に申し上げたら叱られるかもしれませんが、お嬢さんは、死ぬ前にお母さんの誕生日をお祝いすることも、大切に育てた花をお母さんに渡すこともできて、きっと良かったなぁって思ってるんじゃないかなと。だからもう、それ以上自分を責めないでください。 『あの子がこの花畑を育てて、それで花を摘んで。私は、この花さえ持ち帰らなければ、そんな思いで花さえ見ることもできないでいました。あの子にしかられちゃいますね。今、あの子の顔が花の向こうに見えたような気がしました』 用務員さんも頷いた 『私にも、見えたような気がします。お母さん、どうですか、この花を持ち帰って育ててくれませんか?』 そういって、用務員さんはマーガレットを一株掘り起こすと、鉢に入れてお母さんに渡してくれた。この花を見るたびに、お嬢さんの笑顔を思い出して、元気を出してください。 ずっと泣き通しのお母さんの涙は、今は暖かい涙に変わっていた。 空にはピンクの花を一面に広げた桜が咲いていた。深々とお辞儀をして、花を大切に胸に抱かえてお母さんは家路へ向かった。 🌸 今日のお花 イベリス
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so.ra
🌸マーガレットの咲く道で🌸   その4 学校は春休み。満開の桜の下を、お母さんは娘の荷物を取りに学校へと出かけていった。残された荷物を渡しながら、先生が一枚の写真をくれた。   泥だらけの手を開いて、花盛りの花壇の前に見知らぬ男性と満面の笑みで写った写真。 用務員さんなんですよ。 みんなに好かれる活発なお子さんでしたが、とても優しくて、よく用務員さんの花壇の手入れを手伝っていて、二人でニコニコととても仲良しでした。これは、理科の記録写真を撮ってるときに見かけて、記念にって撮ったものなんです。良かったら持っていてあげてください。 娘の写真の写真の隣に写っていた人は用務員さんと聞いて、お母さんは用務員さんに、ひとめお会いしてお礼を伝えようと思った。先生に聞いて、裏庭で花の手入れをしている用務員さんを探した。 その日は桜の花が満開の、少し汗ばむ陽気だった。汗をふきながら花壇の世話をしている男性を見つけて、お母さんはためらいながら声をかけた。 娘がお世話になりまして、、。 その男性は娘の名を告げると、被っていた帽子をとって深々と頭を下げた。 『お嬢さんが事故で亡くなったことを知って、私も悔しくて悲しくてなりませんでした。お母さんもさぞかし辛い思いをなさったことでしょう。お嬢さんはとっても優しいお子さんでした。花壇で草をとってる私のところに来ては、学校であったことをいろいろ話しながら、手伝いをしてくれました。私も自分の孫ように可愛くて、いろんな話を聞く時間が楽しみでした。』 お母さんは、あの朝娘の身に起きたこと、マーガレットを學校から持ち帰ってくれたことを話して、娘に優しく接してくれたお礼を伝えた。 『あの日から、私の時間は止まってしまったみたいです。娘が私に花を持ち帰らなかったら、駆けて帰ってきた娘を学校まで送っていたら、そんな後悔ばかりが心を離れないんです。誰にも見つけてもらえず、苦しんでいた娘を思うと、今でも悲しくて悔しくて。』 涙を浮かべて話すお母さんに、優しく耳を傾ける用務員さん。誰にも言えなかった胸の思いを伝えるうちに、あとからあとから涙が流れてくるのだった。 暖かな春風が通りすぎ、二人がしゃがみこんでいる花壇の上から桜の花びらがヒラヒラと蝶のように舞い落ちて、 まるで空から、心に積もった悲しみを流していくようだった。 🌸
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so.ra
🌸マーガレットの咲く道で🌸   その3 二人には子供がいた。それは可愛い女の子。 小さな頃は好き嫌いが多くて、なかなか大きくなれなかったが、小学校に上がってからは、仲良しの友達ができて、あちこちと駆け回り、ご飯もおかわりをするようになり、ぐんぐんと大きくなった。 小学校3年の頃には、なかなかのわんぱくで木登りもするし、時々は男の子も泣かしたり。 優しいところもあって、学校帰りには、野の花を摘んで『はい、これ!』って、照れたようにお父さんに渡すのだった。 3人は、休みの日になると、桜並木の続く土手を手を繋いで散歩した。花を飛び回る蝶のように父と母の間を、行ったり来たり散歩する時間が、みんな大好きだった。 それは、桜がもうすぐ満開という3月の終わり、その日は雨が降っていた。学校へ子供を送り出してから、しばらくして息を切らして娘が駆けもどってきた。 『どうしたの?何か忘れ物?』 『あのね、大切なことを忘れたの。 今日はお母さんの誕生日。これ、学校の花壇から持ってきたの。お母さんに、誰よりも一番にお祝いを言いたくて。お誕生日、おめでとう!』 そういって女の子は、ピンクのマーガレットを一輪差し出した。 『まぁ、有り難う。可愛い花ね。でも、学校の花を勝手にとってはダメなのよ』 『大丈夫なの。これはね、用務員のおじさんの草むしりをお手伝いしたときにお礼にって、小さな株を貰ったの。それから、内緒で私用の植え木鉢で育ててたのよ。お母さんのお誕生日をお祝いしようと思って!うふふ、じゃあ、言ってくるね。』 そういうと、傘をさしてまた雨の中へと駆けていった。 ありがとうを言う暇もなく、女の子が角を曲がる姿をみおくると、お母さんはマーガレットを胸に抱き締めて『ありがとう』と呟いた。テーブルの一輪挿しに可愛く揺れるマーガレット。 今日は素敵な誕生日。 今夜は何を作ろうかな、花を眺めながら、お母さんはニコニコと。 それからしばらくして、電話の音が鳴り響いた。 今度は忘れ物何かしら?。 笑いながらお母さんが電話に出ると、電話の向こうからは、緊張した女の人の声が聞こえてきた。 『お母さんですか?落ち着いて聞いてください。娘さんが事故にあいました。すぐに来てください!』 なんてこと!頭がぐるぐるして、心臓の鼓動が聞こえるほど大きく打っている。 『落ち着くのよ!落ち着くのよ!』声に出して自分に言い聞かせながら、お父さんに電話をすると傘をさして家を飛び出した。 その日は強い雨が降っていた。校門の少し手前の道で、女の子は車にはねられた。女の子を引いた車は逃げてしまい、女の子が倒れていたところを、近所の農家の人が見つけたのだった。 『お気の毒に、もう少し発見が早かったら。。雨が降っていたし、堀に落ちてしまったんで、発見が遅れてしまったんです。この子の傘が近くに落ちていて、拾おうとした人が気づいて発見してくれたんです。お子さんはおなくなりになってます。』 子供の変わり果てた姿を見ても、どこか夢の中にいるような、頭の中の時が止まってしまったような感覚で、お母さんは我が子の顔をのぞきこんだ。 女の子の体は、びしょ濡れで毛布に包まれていた。さっき薔薇色に上気して学校からかけ戻ってきた我が子なのに、今は人形のように真っ白で目を閉じて寝ているようだった。飛ばされて道路脇の堀の中に落ちてから、しばらく意識があったのか、その手に道のわきに咲いていた野の花を握っていた。 『しっかり花を握っているから、手を開いてとろうとしたんですがあまりに固く握っていて開かないので、そのままにしていました』 お母さんは子供の両手を震えながら包むように握った。その時、固く握っていた手が開いて、女の子の手から花が一輪こぼれ落ちた。 『ハルジョン』 この花が好きなのよ。 お母さんにあげるね。 私の秘密の場所にたくさん咲いてるの。真っ白なすっごいお花畑、本当に綺麗なんだよ。 いつか見せてあげるね。 そうだ、この花。    いつか娘が話してくれた。 花畑に私を連れていってあげると。 そう思ったら、一気に現実が押し寄せて、お母さんは我に戻った。そして、子供の名前を叫ぶように呼びながら娘を抱いて泣き崩れた。 車にはねられたことも 誰にも見つけてもらえずに、冷たい堀の中に落ちていたことも  何で今このタイミングなの どうしてこんなことになってしまったの ごめんね 痛かったね 苦しかったね 見つけてあげられなくて ごめんね なのにあなたは 死ぬときまで花を 泣いて泣いて 涙が出なくてなっても まだ泣けてくる 桜の季節に 二人の娘は空へとのぼっていった  心にぽっかり穴のあいたまま 時が過ぎていく 🌸
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so.ra
【瑠璃の冬の物語】   ~エピローグ~ 私は帰る 長い旅路を 散り散りになった 心の欠片を 拾い集めて 懐かしいふるさとへ 空に春を告げる春雷 雨がときを告げて 枯れた大地を起こしていく 長い眠りから解き放たれて うずくまっていた体を 空へ伸ばす ほとばしる いのちの力を込めて 弾けるように芽吹く 全ては自分に帰る旅 さぁ 新しい始まりのとき 生きている喜びに包まれて 歩きだそう 🌸東京 雨 10℃ 強い雨と春雷が轟いています。 今日、3月13日は魚座の新月。 浄化の新月だそうです。 激しい雨も雷も、浄化の一翼を担っているかのようですね。 地球の、シアノバクテリアから始まった40億年のいのちの旅。体にミトコンドリアを持つことや、植物が酸素を作ってくれること、そんないのちの旅の動画見て素敵な余韻が残りました。全てのいのちの中に、40億年の歴史が入っている。私たちは周りを素晴らしいいのちの世界に囲まれて、支えあっているんだなって、いのちの総てを尊いなって思いました❤️よろしければ、動画のサイトは↓から https://youtu.be/u8-Vzpx26b0 今日もよい日に💕 写真は過去pic から 🌸よろしかったら、物語を【瑠璃の物語】【瑠璃の冬の物語】の下のタグからご覧下さい。
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so.ra
【瑠璃の冬の物語】その27 弥彦は、瑠璃が突然いなくなってから、毎朝村外れの鎮守の社に、瑠璃の無事を祈って詣っていた。 その朝も、幼い健をつれて参拝に行こうとすると、向こうから歩いてくる人の姿があった。 裸足だが、女の姿だった。背格好は瑠璃のようにも見える。もしや、幻を見ているのか、そう思って目を凝らすと、なんと!それは、紛れもない愛する瑠璃の姿だった。 弥彦は胸が高鳴った。 瑠璃は、鎮守の森の社の向こうから、手を降ってかけてくる親子連れの姿を見た。小さな子供の手をひいて、自分に手をふっている。 まさか!まさか! あぁ、一日も忘れたことはない、弥彦の姿、あの幼い子供は健の姿!無事でいた、大きくなって!瑠璃も駆け出した。 昇り始めた朝日さす丘を、弥彦と瑠璃が互いにかけよった。 「どうして、あなたはここに?」 二人の口から、同じ言葉か飛び出した。 同じときに同じ場所で再び巡りあう、そして何よりも生きていた、その奇跡に、再会に、二人は続く言葉もなく、ただ互いを見つめそして抱き締めた。 あとからあとから、とめどなく溢れる涙。互いの名を呼びあいながら、二人は再開を喜びあうのだった。 手を繋いで丘の道を家に帰って行く、瑠璃と弥彦。三人を祝うかのように、丘のわきには花が咲き乱れ、山鳥が朝の歌を賑やかにさえずっている。緑が増した草原を、光を受けてキラキラと光りながら風がわたっていく。 どんなときも幸せを信じて生きるんだぞ、いつか聞いた父さまの声が、ふと風にのって聞こえたように思った。 そして、母さんよかったね! そんな太一の明るい声も聞こえたような気がした。 「そうね、父さん、太一。 いろんなことがあったけど、全ては私に戻る道だったわ」 瑠璃はそっと呟くと、小さな健の手を握り弥彦と顔を見合わせて、微笑むのだった。 終わり❤️ 花は、庭に咲き始めた沈丁花です。とても優しい香りが漂っています。一番に春を知らせて、幸せな気持ちにしてくれる花😊 瑠璃を花に例えるなら、きっとこんな物静かだけれど香り高い花なのかなって思い、物語の最後の一枚に選びました。 瑠璃の冬の物語を、お読みくださってありがとうございました。『冬』をテーマに人の心の醜い部分、苦しく辛い人生も、あえて書いてきました。 波乱の人生を歩んできた瑠璃の生きざまが、読んでくださった皆様のどこかでお力になれていたら嬉しいです。 人生の冬の物語への挑戦に、私も心が折れそうになりながら、皆様の言葉やいいねに支えられて、最後まで書くことができました。ありがとうございました💞 3月11日の震災から10年、苦しみと悲しみを越えて、私たちみんなでひとつになってこれからの日本を作っていくだって、思いを新たにしました。たくさんの実りをもたらす木もはじめは一粒の種。どんな一歩も大切な一歩、みんなと歩む道を大切に生きたいと思いました❤️(祈り)
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【瑠璃の冬の物語】その26 僕のいた世界から母さんの世界が見えた。母さんがとても辛い想いをしているときに、母さんを助けることができなくて僕は本当に辛かった。 あの崖から母さんが落ちるときに、僕の代わりに龍神が母さんを抱き止めて助けてくれた。 母さんを助けてあの不思議な世界に連れていってくれたのは、龍神なんだよ。 この世界にはたくさんの時空があって、それが交わる瞬間がある。その時母さんのもとに行って助けることができる。僕は、ずっとその時を待っていたんだ。そして、やっと今日、母さんのもとに来ることができたんだ。 ねぇ、母さん。 母さんは、あの穏やかな世界にずっといることもできたんだ。でも、愛する人と生きるために、辛くて苦しいことも多いけど、もう一度この世界で生きることを決めたね。 僕は、神様と出会ったときに、神様の元で使命を果たして、時が来たら母さんや父さんの元に帰ることを願った。そして、今日その時が来た。 神様は、僕にこの世界へ帰ることも、神様の世界に留まることも、選んで良いんだと言ってくれた。そして僕は、母さんが選んだように、この先の道を選んだんだ。 今も母さんや父さんを心から愛している。みんなと一緒に野山をかけて生きていた世界に帰りたいとも思う。でも、今は、それ以上に僕でなくてはできないことをやりとげたい気持ちなんだ。母さん、僕は神さまの世界に戻るよ。 母さん、心から大好きだよ。 そして、父さんに会えないのは、とっても残念だ。でも、もうすぐ時空が交わる時間が過ぎてしまう。僕は、あの鳥に乗って、神さまの世界に帰らなくちゃならない。ほら、鳥が迎えに来てくれたよ。 太一がそう話す空に目を向けると、満月の下を、真っ白な鳥が彼方から飛んで来るのが見えた。 太一はもう一度強く瑠璃を抱き締めると、立ち上がった。 月明かりに照らされるその逞しく立派な姿を見上げて、瑠璃も静かに立ち上がった。 「母さん、僕は母さんのもとに生まれて幸せな人生だった。この世界で過ごした時間も、辛いことも苦しいことも、みんな大切なものだった。ありがとう母さん。僕たちはきっとまた会えるよ。見えないけれど、どこにいても絆はちゃんと繋がってるからね。どうぞ父さんや僕の弟と幸せに生きて下さいね」   そういうと、太一は白い鳥の背中にひらりと飛び乗り、「母さん、元気でねー!」と大きく手を降りながら空の彼方に去っていった。 太一に助け出されて過ごした時間は、わずかな時間だった。けれど、それは瑠璃にとって時が止まったような永遠とも思える時間だった。喜びも愛も悲しみも感謝も。。たくさんの言葉にならない想いが胸に溢れて、瑠璃はただその想いを愛おしく太一の言葉をかみしめ涙を流した。 「ありがとう太一。元気でねー!」瑠璃の声が白い鳥の姿を追いかけて山々にこだまする。 鳥に乗って太一が飛び去った空に、瑠璃はいつまでもいつまでも手を降り続けていた。 やがて月は少しずつ白み、山の稜線から一筋の光がさしてきた。その光を受けて、瑠璃の握った手のひらから、縄が砂のように溶けてさらさらと落ちていった。 瑠璃は深く息を吐き、そして空を見上げて息を吸い込むと、懐かしい我が家をめざして歩き始めた。 続く 🌸よろしかったら、物語を【瑠璃の物語】【瑠璃の冬の物語】の下のタグからご覧下さいね。
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so.ra
【瑠璃の冬の物語】その24 来る日も来る日も、終わりのない辛い毎日に、いっそ死んでしまいたい、そう思うこともあった。けれど、いつか父さんや母さんの所に戻りたい。そう考えて僕は頑張ったんだよ。 そのうちに、僕は不思議な力が身についたんだ。心で鳥と話ができるようになったんだ。 瑠璃は、もう泣いていなかった。自分の生きた日々よりはるかに苦しい時を乗り越えてきた太一の言葉を、一言も聞き漏らすまいと、体いっぱいに耳をすまして聞いていた。 鳥たちも僕と同じように苦しんでいた。そして、せめて大空を見たいと思っていた。その、悲鳴のような想いを毎日聞いているうちに、僕はいつか鳥たちとここを抜け出そうと考えるようになっていったんだ。 母さん、自由ってなんだろうね。目に見えるものが全てじゃないし、見えないものの方が、とても大切だったりするんだってその時に思ったんだ。どんなに辛いときも、心を縛られずに自由にいるのはどうしたらいいのか、そんなことを考えもしたんだよ。 そして、人だけが想いを持ってる訳じゃないってことも初めてわかったんだよ。心で繋がってみて、人も鳥も植物も、みんな自由な意思をもって同じ時を生きてるんだって、わかるようになったんだ。 そして、そんなある日、旅先で神社に立ち寄ったんだ。 続く 🌸よろしかったら、物語の一話【瑠璃の物語】二話【瑠璃の冬の物語】は下のタグからご覧下さいね。
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【瑠璃の冬の物語】その23 太一が思い出すように、遠くを見つめながら話を始めた。 あの日、いつものように、山に遊びにいったんだ。村外れの鎮守の森に行って、小鳥やウサギを追いかけて遊んでいたんだ。そしたら見慣れない男たちが来て、僕を捕まえると縛りあげて連れられていったんだ。 僕が連れられて行ったのは、旅の見せ物の一座で、僕は猛獣使いを仕込まれたんだ。泣いたり嫌だというと、鞭で打たれたりおりに閉じ込められたりしたから、生きるために必死で何でも覚えた。 父さんや母さんのもとに帰りたい、神様助けてって毎日祈っていたけど、助けは来なかった。火のなかをくぐる芸当や剣を操って踊ることも教えられた。僕くらいの子がたくさんいたけど、死んでしまった子もいたよ。僕はひたすら生きて、父さんや母さんの所へ帰ることだけを考えて生きぬいてきたんだよ。 太一の話を聞いて、瑠璃はわなわなと震えた。 「なんてひどいことを」さっきまでの喜びは消えてしまい、怒りが胸にこみ上げた。 大丈夫だよ。頷くと、太一は続けた。 僕は、辛いときに小鳥の声を真似て口笛を吹いてたんだ。それは、昔母さんから教わったね。そして、僕が小鳥を呼んだりできることに座長が気がついて、僕に鳥を操って芸をさせることをするように命令したんだ。僕は小さかったけど、翼を広げれば僕の体よりも大きな鷹や鷲に芸をさせたんだ。炎の輪をくぐらせたり、剣を持って踊って綱から飛び降りて鳥の背に乗ったり。やることは死と隣り合わせの芸だったけど、僕は覚えてやり抜いた。そして、そのうちに、僕の芸は一座の看板になって、たくさんのお客さんが来るようになったんだよ。」 続く 🌸よろしかったら、物語の一話【瑠璃の物語】二話【瑠璃の冬の物語】は下のタグからご覧下さいね。
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【瑠璃の冬の物語】その22 太一と瑠璃を乗せた鳥は、やがて大地へ降り立った。二人を下ろすと、再び鳥は大空へと飛び去った。 まぶしい太陽の光と思っていたのは、空にかかる月の光。長い間の地下の生活で、瑠璃の目には月の光もまぶし過ぎるほどだった。 「昼間かと思っていたら、夜だったのね。ここはどこなの?」 瑠璃は辺りを見回しながら太一に尋ねた。 「僕たちが住んでいた家の先にある鎮守の森の奥だよ。母さん、もう一度母さんに会えて、本当に良かった。生きていてくれて良かった」 太一が声をつまらせていった。 「今も信じられないわ。これは夢じゃないわよね。あなたがこんなに立派に成長して、私の前に帰ってきた。そしてあんなに大きな鳥を操って助けに来てくれるなんて。」 今にも消えてしまうのではないか、そんな想いを抱きながら、瑠璃は目に一杯に涙を浮かべながら、太一の肩に恐る恐る手を伸ばした。 「もっと早く迎えに来れたら良かったんだけど、どうしても時を待たなくてはならなかったんだ。」 肩においた瑠璃の手に手を重ねて、太一は瑠璃を抱き締めた。「かあさん、痩せたね。とても苦労したんだね」 瑠璃を見つめる太一の目からも涙が止めどなくこぼれた。 「あなたがいなくなってから、毎日毎日、山のなかを探し回ったけど、あなたは煙のように消えてしまった。とても悲しくて辛い気持ちで毎日を過ごしていたのよ。あれから、あなたのことを一日も忘れたことはなかった。 あなたにいったい何があったの。」 とても信じてもらえないかもしれないけど、僕は不思議な体験をしたんだ。 空にかかる満月をあおぎながら、太一が話を始めた。 続く 🌸よろしかったら、物語の一話【瑠璃の物語】二話【瑠璃の冬の物語】は下のタグからご覧下さいね。
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【瑠璃の冬の物語】その20 瑠璃はチャンスを逃さないように、毎日日が昇ると一番大きな木に登っては、鳥がやってこないかと天を仰いで過ごしていた。 そんなある日、瑠璃は夢を見た。一羽の真っ白な鳥に少年が乗って空高くから飛んでくる。その少年が自分に手をふっているのである。 瑠璃は思わず飛び起きた。そして、隣を見ると男と女も起きて、瑠璃に頷くのだった。 「あなたも夢を見たのね。たぶん私たちも同じ夢を見たわ。きっと、時が来たのよ。さぁ、あの木の所に行ってみましょう」 瑠璃は心臓が高鳴った。二人と共に、縄を持ち急いで木に向かっていくと、夢に見た通りに、はるかな光のさす高い天井の向こうから、真っ白な大きな鳥が飛んで降りて来た。そして、何とその背中には、一人の少年が乗っており、自分に手を降っているではないか。 「母さ~ん!僕だよ、太一だよ。迎えに来たよー!」 あぁ、それは生き別れた愛しい我が子、太一の成長した姿だった。太一は器用に白い鳥を操り木の近くまでやって来た。 「ここが精一杯だ。母さん、飛び移れるか?」 太一が叫んだ。 涙が溢れそうになる瑠璃は唇をきつく噛み締めた。 そして、石つぶてをつけた縄を、鳥の足もとをめがけて投げ、縄は見事に命中した。縄の端を自分の腹にくくると、瑠璃は縄を伝って登っていった。その縄の端を太一も引き寄せ、見事に瑠璃が鳥の背中につくや、鳥は光のさす天井へと飛び立った。 鷹よりもはるかに大きなその鳥の起こす風でたくさんの葉が枝から吹雪のように舞い落ちた。 瑠璃は太一に抱えられ、眼下に目をやると、二人が大きく手を降って瑠璃を見送ってくれていた。 「有り難うー!」 涙声の瑠璃の声が洞窟にこだました。 やがて、天井の光に吸い込まれるように、白い鳥の姿と共に、瑠璃の姿は二人の視界から消えた。 「幸せにねー!」 後を追うように、女の声が洞窟にこだました。 鳥が飛び立ったあとも、光の乱舞のようにきらめきながら虹色の葉が舞い落ちてくる。それは美しい光景だった。 男と女は長い間瑠璃の去った彼方を祈るように見送っていた。 続く 🌸よろしかったら、物語の一話【瑠璃の物語】二話【瑠璃の冬の物語】は下のタグからご覧下さいね。
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【瑠璃の冬の物語】その18 2人に連れられていった場所は、洞窟の天井から光がさして、その下に生い茂る木々が虹色に輝いている場所だった。光のさす中央に大きな木が繁り、その枝には見たことのない虹色に輝く実が実っていた。 荘厳な美しさに見とれる瑠璃に、2人は木を囲むように座ると、瑠璃にも座るように促した。 「ここにたどりついたときに、私たちは食べるものもなくて、あちこちを探して洞窟をさ迷ったのよ。その時に、この美しい場所を見つけたの。もしかして、外に通じる道がないかって探したけど、この場所だけ天井が割れて光がさしていたの。でも、あまりにも天井までが高くって外に出るのは無理だって、諦めたの」 そして、男が口を開いた。 「私たちは、もう最後と覚悟を決めて、死ぬならここで死のうと。そして、命の最後に美しい景色を見せてくれたことに感謝して、この木を囲んで感謝の祈りを捧げようと考えたんです。どのくらい時間がたったのかわからなかったが、私たちは死なずにただ時が過ぎて、ある日美しい月の光がさした日に、この木に、虹色の実がなったんです。その実を食べて私たちは、生きてきた。なんのために命を繋ぐか、私たちもわからない。ただ、愛と感謝をこの木に祈ると木が幸せそうに見えてね、ここで瞑想をして、祈りを捧げることを日課にしてるんですよ」 瑠璃も2人と共に静かに座って時を過ごした。 木々の上に見える天井は果てしなく高く、瑠璃にもとても登れないと思えだが、女がこんなことを言った。 「実はあなたが流れ着く前の日に、ここで瞑想をしていると不思議な夢を見たのよ。それは、真っ白な大きな鳥に捕まってこの木から空に登っていく人の姿なの。あなたも同じ風景を見たのよね」 男に同意を求めると男も静かに頷いた。 「この木の葉はとても丈夫なの。私たちはこの葉の繊維で織った服を着ているの。また見たことはないけれど、あの夢に出てきた大きな鳥がもしも、飛んできたらあなたは、その鳥に捕まって、あのわずかな隙間から、もとの世界に帰っていけるんじゃないかしら」 あの木に鳥が、外の世界から飛んでくる。それは奇跡に近いことだろうと瑠璃も思った。だけど、瑠璃はどうしてももう一度愛する家族に会いたいと思った。そして、2人の夢の話を信じて、その時にかけてみようと考えた。 「可能性があるなら、試してみたいと思います。木の葉から繊細を作る方法を教えてください」 女に頼むと、その日から瑠璃は、木の葉を繊維にして縄をない、木に素早く登り、石つぶてを投げてものをとらえる練習を始めた。 どれ程の時が流れたのか、瑠璃の作った綱は長くしなやかに山になり、木には素早く登り、石つぶては小さなものも捕らえることができるようになった。瑠璃は、故郷の山で真似ていた鳥の鳴き声を真似た口笛を木のふもとで吹きながら、どうぞ迎えにきてくださいと祈るのだった。 続く 🌸よろしかったら、物語の一話【瑠璃の物語】二話【瑠璃の冬の物語】は下のタグからご覧下さいね。
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【瑠璃の冬の物語】その17 女は瑠璃の話を聞き終わると、優しい笑顔で尋ねた。 「いろいろ経験したのね。それで、あなたは、その人生が好きかしら?」 思いがけない質問に、しばらく瑠璃は考えた。 辛いことも、苦しいことの多い人生だった。人の心のエゴや裏切りや、底無しの泥沼のような心もたくさん見てきた。でも、母さまの愛で生まれ、父さまに愛されて育ってきた。野山の美しい自然のなかで生きる素晴らしさも知った。愛する弥彦と出会い、可愛い子供ももうけた。 幸せだけとは言えない人生だけど、なかった方がいい人生だったろうか? 「もっと楽に幸せに生きられたら…とは思います。でも、両親や大切な弥彦さんや子供とのであいが、この人生の中にしかないのなら、私は自分の人生が好きです」 「ここは時間が止まったような不思議なところ。食べるものに不自由することもないし、老いることも病気も心配もなくて、ただ静かに時が流れていく毎日。私たちは、ここでなにかを産み出すことも、新しい経験をすることもない代わりに、穏やかに自分の時間を過ごすことができるわ。あなたがずっとここに留まりたければ、いつまでもいていいのよ。」 女の言葉で、瑠璃は自分がどう生きたいのか考えた。 「もしも、ここに弥彦さんがいたら、一緒にここで暮らしたいと考えるかもしれません。でも、可愛い子が成長をせずずっと赤ん坊のままなのは、きっと辛いと思います。やっぱり、私はもとの世界で、弥彦さんや子供と一緒に生きていきたいと思います」 瑠璃の言葉に、女は頷くと傍らにいる男と一緒に立ち上がって、瑠璃を手招いた。 「あなたは、そう答えるんじゃないかって思っていたわ。あなたに、お見せしたいものがあるのよ。一緒に来てくれるかしら」 瑠璃は二人のあとについて、流れのわきの洞窟の中へと入っていった。 続く 🌸よろしかったら、物語の一話【瑠璃の物語】二話【瑠璃の冬の物語】は下のタグからご覧下さいね。
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【瑠璃の冬の物語】その16 女のくれた実は、故郷の山で食べたの野イチゴや桑の実のような味がした。 そして、不思議なことに実を食べるほどに、苦しかったことも辛かったことも、みんな体の中から消えていくような軽やかな気持ちになっていった。 幼い日の父の姿、野に咲くタンポポやれんげの花。忘れていた風景が甦り瑠璃は目を閉じた。 胸の奥から懐かしい温かな思いが次々と込み上げて、閉じたまぶたから涙がポロポロとこぼれ落ちた。       その姿を見て女が、どうしたのかと尋ねた。 「ずっと忘れていた、父様との懐かしい幸せの風景を思い出したんです。忘れてはいけない大切な思い出なのに、歯を食い縛るように生きていて、大切な記憶があったことさえも忘れてました。不思議です。この実を食べたら、体が軽くなって、心の中に幸せな気持ちが次々に浮かんでくるんです。」 そうなのと、女は笑っていった。 「この実は不思議な実なの。体に力をくれるだけじゃなくて、心にも力をくれるから、きっとあなたは懐かしい大切な思い出を思い出せたのね。 生きている時間は不思議なものなの。今、あなたはずっと幼い子供の頃の思い出を昨日のことのように感じているでしょう。 すべては一瞬の中の出来事のようなもの。過去も未来も今も同じようにあるんだって。ここにきて、それをとても強く感じたのよ。 あなたが思うどんなときも、心に呼び出して今起きていることのように感じられるのよ。本当は人は自由な心で、幸せを自分の心の中から呼び出して使えるのに、その事を忘れてしまって、悲しみや苦しみに心を縛られてしまって、それはとても残念なことよね。 あなたが幸せを感じた時間を、楽しんでみたらいいわ。そして、良かったらあなたの話をお聞かせくださいね」   少しずつ元気を取り戻して、瑠璃は今までの境遇を、ポツリポツリと話し出した。  続く 🌸よろしかったら、物語の一話【瑠璃の物語】二話【瑠璃の冬の物語】は下のタグからご覧下さいね。
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【瑠璃の冬の物語】その15 体を撫でる暖かな手は、記憶の彼方の母の姿を思わせた。 ぼんやりした意識のなかで、誰かの呼び掛ける声を聞いたような気がした。 夢の中で、故郷の野山を父様と歩いている幼い自分がいた。 父様の手をしっかりと握って、 それは優しく温かく大きな安心と繋がっている感触だった。 すべては夢だったのだろうか 「父様」 そう、声にした自分の声で、瑠璃は目を覚ました。 「起きたようだね。気分はどうだい」 2人の男女が、瑠璃を見つめていた。髪は銀色で、真っ白な肌、七色の光を放つ不思議な服を着ていた。 「ここは天国?」 あたりの不思議な光景に、瑠璃が訪ねると、女が笑っていった 「いいえ、ここはこの世よ。 あなたは川の流れに運ばれて、ここへきたのよ。」 男性が続けた 「あなたはずいぶん長いこと眠っていたから、もう、目を覚まさないのかも知れないと、心配していたところだったんですよ」 二人は顔を見合わせて微笑んだ。 あたりを不思議そうに見回す瑠璃に、女がいった。 「不思議なところでしょう?私たちも流されて、ここにたどり着いたのよ。あなたは、あの洞窟の向こうから流れてきたのよ」 そこには大きな鍾乳洞のトンネルがあり、この中から流れ出た水が、瑠璃のいる広場のような場所の脇を、勢いよく流れていた。 天井が数ヶ所抜けていて、その広場になったところへ、筋になって光が降り注いでいた。 なんて綺麗な光、そう思って眺める瑠璃に、男が話しかけた。 「綺麗な光でしょう。ここは、あの水の流れが作ったんじゃないかと思うんですが、私たちもあの流れの来る先も、ここから流れていく先も、知らないんですよ。 だけど、天井から降り注ぐあの光のお陰で、地底のここにもわずかに植物が育って、私たちの命を繋いでくれてるんです」 そういわれて、あたりを見回すと、そのあたりだけ緑の草木が繁り、見たことのない花も咲いていた。 「長いこと眠っていたから、おなかがすいたでしょう。これはとても栄養のある木の実なの。良かったら食べてみない」 女がくれたのは、始めてみる木の実だった。 続く 🌸よろしかったら、物語の一話【瑠璃の物語】二話【瑠璃の冬の物語】は下のタグからご覧下さいね。
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【瑠璃の冬の物語】その13 瑠璃の居なくなった夜、その夜も瑠璃が来るだろうとそわそわと待っていた権蔵は、夜遅くなっても瑠璃が来ないのを不思議に思い梅に訪ねた。 「どうしたんだろう。珍しいこともあるもんだ。赤ん坊が乳が欲しくて泣くだろうに、今夜はどうして来ないんだろう」 「知るもんかね。きっと、腹でもこわして寝込んでるんじゃないかい。病気なんぞうつされたら大変だよ。くわばらくわばら。」 「そうか、来ないんなら仕方ない。ふん、つまらん。寝るとするか」 権蔵はそういうなり、ごろんと布団に入ってしまった。 邪魔な瑠璃が居なくなって、権蔵が以前のように優しくなるかと思ったのに、素っ気なく振る舞う様子に、梅は宛が外れて面白くなかった。 「なんだい。瑠璃さん瑠璃さんって。瑠璃さんはもう、来やしないよ」そう、小さな声で言うと、梅も寝床についた。 翌朝、権蔵は村人の話で、瑠璃が谷底に落ちたらしいことを知った。 1日2日と日がたっていくにつれ、権蔵は心にぽっかり穴が開いたように感じるのを、不思議に感じていた。そのうちに、そんな心を慰めるように、権蔵は酒を飲むようになり、野良にも出ないで昼間から酒を飲んでは暴れて梅を殴りつけるようになった。田畑は荒れて財産も底をつき、二人はしだいに食べることもままならなくなっていった。 そんなある日、酔っぱらった権蔵が始末を怠った囲炉裏から火がでて、たちまち炎は家中に燃え広がった。 夜の暗闇に権蔵の家から火の手が上がるのを見つけた村人もいたが、日頃皆を虐げていた権蔵らを助けるものもなく、たちまち広がった炎に巻かれて、翌朝には家は跡形もなく焼け落ちた。 そして、たくさんの想いの標のように、 焼け跡に一本の木が残った。 悲しみや苦しみも  風が吹き   雨が降り    光に溶けて     消えていく 冬が来て  枯れ葉が落ちるたびに   その葉に預けられた想いは    鮮やかに染まって     大地に落ちて      命に還っていく そうしてふたたび春は巡り  硬いつぼみから   若葉が顔を出す    時を待つ     幼子よ      愛しい幼子よ 冬を越えて生きる  お前の命を光が包む   たくましく育て    お前の枝を雨がぬぐう     元気に育て      お前の枝に鳥が唄う       愛されて        愛に包まれて生きよ               続く 🌸よろしかったら、物語の一話【瑠璃の物語】二話【瑠璃の冬の物語】は下のタグからご覧下さいね。
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【瑠璃の冬の物語】その11 目覚めたら瑠璃がいなくなっていた。弥彦は、野良に出ているかと瑠璃を待ったが、昼時になっても瑠璃が戻らず胸騒ぎがして、子供を背負ってあたりを探した。 泣き声をあげる赤子を背負って、必死の形相で瑠璃を探す弥彦の姿に、村人が声をかけ、村中総出で瑠璃を探した。 探しても探しても瑠璃は見つからず、弥彦は梅にも瑠璃を見なかったかと訪ねた。「今日は見かけないね」と言ったきり、梅は戸を閉めてしまった。 そうして日がくれる頃、村人が、崖の縁に瑠璃の草履らしいものがあると、弥彦のもとにかけてきた。 慌ててかけていってみると、そこには確かに瑠璃の草履が、崖に向かってきちんと揃えて脱いであった。 「命を断ったかのう。」 村人の一人が口にした。 「瑠璃さんは、辛い毎日を過ごしておいでじゃったから」権蔵の仕打ちを知っている村人らは、瑠璃が絶望して崖から飛び降りたのだろうと考えたのだった。ナンマンタブ、ナンマンダブと崖に向かって拝む者もいた。 村人らは、弥彦の肩を慰めるように叩くと、一人二人と村へと帰っていった。 一人残った弥彦は、瑠璃の草履を胸に泣き崩れた。 『瑠璃よおー!瑠璃よおー!』 谷底に向かって弥彦の叫ぶ声と、火のついたように泣く赤ん坊の声が、カラカラと落ち葉を舞いあげる風に乗って、闇を切り裂くように、谷にこだました。 夜も更けて、泣き疲れて静かになった赤ん坊を背負って、弥彦はやっと立ち上がった。 「お前のほうが何倍も辛い思いをしていたのに、俺は自分の辛さで心が一杯で、お前に優しい言葉のひとつもかけてやれなんだ。瑠璃、すまない。 お前が自分を犠牲にしてまで命を助けたこの子だが、この先どうやって育てたらいいんだ」 止めどなく落ちる涙を拳でぬぐいながら、弥彦は夜道を戻っていった。 いっそこの子と物を食べずに死んでしまおう、そんな思いを抱きながら家につくと、弥彦は崩れるように床に入ったのだった。 続く 🍂西沢渓谷 🌸よろしかったら、物語の一話【瑠璃の物語】二話【瑠璃の冬の物語】は下のタグからご覧下さいね。
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【瑠璃の冬の物語】その10 父が亡くなって、ひっそりとした家のなかだったが、赤ん坊も元気に育ち、瑠璃と弥彦との会話も少しずつ増えていった。もう少しで乳をもらいに行くのも終わり、そんな思いが二人の気持ちを明るくしていた。 そんなある日、乳をもらいに言った日に、珍しく梅が瑠璃に優しく話しかけてきた。 「瑠璃さん、あんたの乳が出ないのは、栄養が足りないからだろう。実は私が知ってる秘密の薬草があるんだよ。家のものだけの秘密だから、今まで言えなかったけど、この頃はあんたの子もたくさん乳を飲むようになって、わたしの子の分の乳も足りなくてね。そろそろあんたも自分の乳で子供を養えたらいい頃さ。」 「そうだったんですね。そんなことも知らずにすっかり甘えておりました。その薬草はどこにあるか教えていただけないでしょうか」瑠璃が訪ねた。 「特別に連れてってやるよ。だけど、絶対に人には言わないことだよ。弥彦さんにもだよ。何せ秘密の薬草だからね。」 瑠璃が承知すると、明日の朝早く、日の出前にかごを持っておいでと話がまとまり、まだ寝ている弥彦と赤ん坊をおいて、瑠璃はそっと家を出た。 梅さんの家につくと、外で待っていた梅さんが瑠璃の姿を見るなり、話もせずに足早に進んでいく。そのあとを駆けるように追いかけ、やがて村外れの崖の縁に出た。 そこは、深い沢の上の切り立った崖で、めったに人も訪れないところだった。その場所につくと、やっと梅が口を開いてこういった。 「この崖を少し降りた所に、薬草が生えているんたよ。ほら見てごらん、少しだけ葉っぱが見えるだろう。」 そういわれて恐る恐る覗いてみたが、それらしい葉っぱは見えなかった。 「あぁ、瑠璃さん、無理しちゃ危ないよ。ここに蔦を持って来たから、私が支えてるから、身軽なあんたが降りてって、あの薬草を二人分取ってきてくれないかね。私はこの通り太ってて、とても無理なんだよ」 この数日の雨で水かさが増した水音が谷底からゴーゴーと響いていた。冷たい風が吹き上げて、瑠璃も身震いするような、険しい崖だった。けれど、子供の乳の世話になった梅のためにも、子供のためにも薬草を取ってこようと、意を決して瑠璃は頷いた。 「いいわ。梅さん。私が降りて二人分の薬草をとってくるわね。どうぞしっかり蔦を支えていてね」 そういうと、瑠璃は草履を脱いで、梅の持つ蔦の端を腰に結んで、岩につかまりながら谷底に降りていった。 険しい崖をかなり降りてみたけれど、梅の言う薬草も見当たらず、瑠璃は梅に向かって声をあげた 「梅さん、薬草が見つからないわ。もう少し下の方かしら?」 すると、突然梅が笑い出してこう言った。 「嘘だよ。薬草なんて、真っ赤な嘘さ。あんたが邪魔だったんだよ。ここでおさらばさ!」 そう言うと、持っていた蔦を手離した。 瑠璃はたちまち崖を落ちたが、途中に生えていた小さな木にやっと片手で捕まった。 「梅さん!後生だから助けて!お願い、あなたに何かしたのなら償いをするから、どうぞ助けて!」瑠璃は崖の上の梅に叫んだ。 「あんたにわかるもんかね。あんたが来るようになってから、権蔵さんは私を蔑むような目で見るようになったのさ。それなのに、あんたが来る時間になるとそわそわして、身づくろいしだすんだ。口を開けばあんたの話ばかりさ。私が乳をやってる間あんたが権蔵さんに抱かれてる。毎日、私がどんな思いでいたかわかるかい。それなのに憎いあんたの子に、毎日毎日乳をやる私の苦しみがあんたにわかるかい。 あんたが来なけりゃ、私は幸せだったんだ!あんたなんか、死んじまえばいいんだー!!」 梅の叫びとともに、大きな岩が瑠璃の上に降ってきた。 その一つが瑠璃の頭にあたり、岩と一緒に、瑠璃は激しい谷の流れに落ちていった。 続く 🌸よろしかったら、物語の一話【瑠璃の物語】二話【瑠璃の冬の物語】は下のタグからご覧下さいね。
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