季語は四季折々の風情を愛でる日本文化の象徴です。季語に含められる動植物を中心に、写真付きの俳句歳時記風にまとめた「季語シリーズ」、今回は秋の第一弾です。懲りずに自作の句も少々入れてみました。
【紅葉】
秋と言えば紅葉。
もみじであろうと柿であろうと、落ちる前の命の炎は鮮烈です。
にわとりも 昼の真下で 紅葉す あざ蓉子
【柿紅葉(かきもみじ)】
単に紅葉でも秋の季語ですが、植物名を冠した季語も沢山あります。
柿紅葉 地に敷き 天に柿赤し 松本たかし
【秋思(しゅうし)】
秋の寂しさに誘われる物思いのこと。何となくメランコリックになる季節ですよね‥
秋思やがて 白刃の手入れ 始めけり 鈴木鷹夫
風吹きて うつろな胸に 秋思満つ ねこたんぽ
【柘榴、石榴(ざくろ)】
西アジア原産の落葉小高木。東京入谷などの鬼子母神像を見ると右手に石榴を持っています。この女はもとは鬼女であり、他人の子を盗んでは千人の我が子に食べさせていました。それを知った釈迦は、女に石榴を与え、人の子の代わりにその実を食べさせよと戒めたと言われています。子孫繁栄の縁起の良い木とみなす地域が多いようです。
石榴割れる 村お嬢さん もう引き返さう 星野紗一
【秋の池】【水澄む】
気温が下がるにつれて水も冷たく透明度を増して行きます。
君の影 水面に揺るる 秋の池 ねこたんぽ
【芒(ススキ)】
かの清少納言も「秋の野の、おしなべたるをかしさは、すすきこそあれ」(秋の野の情趣はススキあればこそ!)と述べている通り、風に揺れる様はまさしく秋の風情です。
をりとりて はらりとおもき すすきかな 飯田蛇笏
月に兎 地に芒あり 相躍る ねこたんぽ
【林檎】
バラ科リンゴ属の落葉高木またその果実。春に桜に似た美しい花をいっぱいにつけ、秋にはお馴染みの果実をたわわに実らせます。
林檎投ぐ 男の中の 少年へ 正木ゆう子
【烏瓜(からすうり)】
あの妖艶な花は夏の季語ですが、木の葉が落ち始めた野で目立つ実は秋の季語です。
夕暮の 錘りのごとき 烏瓜 山田雅子
妖女から 幼女になりし 烏瓜 ねこたんぽ
【狗尾草(えのころぐさ)】
猫じゃらしの異名で親しまれているイネ科の雑草です。
東京の 膝に女と ねこじゃらし 坪内稔典
【鰯雲(いわしぐも)】
巻積雲(絹積雲):白色で陰影のない非常に小さな雲片が多数の群れをなし、集まって魚の鱗や水面の波のような形状をした雲。鱗雲(うろこ雲)、鰯雲(いわし雲)、さば雲などとも呼ばれる(Wikipediaより)
階段は 二段飛ばしで いわし雲 津田このみ
【鰯(いわし)】
代表的な庶民の魚。秋、防波堤のそばを巨大な龍の如く群泳する様は圧巻です。
鰯めせ めせとや泣子 負ひながら 小林一茶
弱し賤し 言わば言え鰯あればこそ ねこたんぽ
【桔梗(ききょう)】
秋の七草の一つで、昔は朝顔と呼ばれました。雄性先熟であり、他の花からの花粉でないと受粉が成立しない仕組みになっています。
桔梗の 二夫にまみえて 濃紫 阿部宗一郎
【猪(いのしし)】
ご存知ブタの原種。写真は妻と夜の神戸北野町を歩いた時に遭遇した個体です。
その猟夫 猪に間違へられやすし 佐々木六戈
恙無く 山で暮らせよ 街の猪 ねこたんぽ
【秋寒】【やや寒】【うそ寒】
秋になって感じ始める寒さ。あれほど「暑い暑い」と言っていたのにもう「うすら寒い」と不平を鳴らす、それが人間の常でしょうか。
うそ寒の 爪先に落ち 真赤な葉 鷲谷七菜子
【鱸釣る(すずきつる)】
スズキ目の頭領であり、私が最も愛する魚でもあります。ピンと張った猛々しいヒレ、銀白色に輝く体、不敵な面構え、見惚れてしまいます。年中釣れますが、旬は秋とされています。四季折々に情趣ある釣り方が出来ます。私が好きなのは晩秋、落ち鮎を狙って川を遡上するスズキを、落ち鮎サイズの巨大なルアーで狙うやり方です。
打つ櫂に 鱸はねたり 淵の色 其角
大いなる 鱸をさげて かちはだし 山中華丘
水面裂き 白銀一閃 鱸釣る ねこたんぽ
【思草】
寄生植物ナンバンギセルの別名です。俯いた横顔のような姿からでしょう。
思ひ草 おもひ尽くせし さまに枯れ 彦根伊波穂
【柿】
と言えば勿論あの句‥
柿くへば 鐘が鳴るなり 法隆寺 正岡子規
作家、半藤一利の説:明治十八年十月、子規は漱石から十円を借りて松山より東京に戻る途中、関西に遊んだ。子規の遺した『人物見立帳』で河東碧梧桐は『大根』、漱石は『柿』とある。つまり子規の見立で言うと漱石は柿で、『柿くへば』というのは漱石から貰った十円の金をここでみな使ってしまったぞ、ということになる。
【秋の蝶】
もうすぐ飛べなくなり、命が尽きるであろう蝶に、私たちは自分の明日を見るのかもしれません‥
ネクタイを はずせ九月の 蝶がいる 坪内稔典
【虫】
俳句で単に虫と言えば秋の鳴く虫を指すことが多いようです。玄関前で斃れたクダマキモドキに蟻が群がっていました😢
虫死セリ 死セリト云ドモ 他ヲ活カス ねこたんぽ
【秋の暮れ】
例えようもなく寂しく美しい秋の夕暮れに、自らの人生の夕暮れを重ねてもの思う‥
反故焚いてをり今生の 秋の暮 中村苑子
【秋の灯】
釣瓶落としの秋の夕、窓辺の灯は人々の変わらぬ暮らしがそこにある幸せを浮かび上がらせます。
秋灯洩れる ところ犬過ぎ 赤児眠る 金子兜太
秋の灯に まだ見ぬ人の 幸祈る ねこたんぽ
如何でしたか?季語シリーズはまだまだ続く予定です。今後ともよろしくお付き合い下さいませ。