季語は四季折々の風情を愛でる日本文化の象徴です。季語に含められる動植物を中心に、写真付きの俳句歳時記風にまとめた「季語シリーズ」、今回は秋の第二弾です。懲りずに自作の句も入れてみました。
【臭木の花】【常山木の花】
クサギは何処にでも生えているシソ科の落葉低木。葉に悪臭がありますが、花はピンクの萼と赤い花弁のコントラストが見事です。
川舟へ 臭木花咲く 坂よけれ 波多野爽波
白鳥の 自我に目覚めし 臭木花 ねこたんぽ
【臭木(常山木)の実】
ショッキングピンクの萼に囲まれた藍色の実はよく目立ち、鳥が好んで食べます。
美女谷や 髪に飾りて 常山木の実 嶋田麻紀
【椋鳥】
声があまり美しくないせいか、大群を作るからか、人気のないムクドリですが、稲田の虫をよく食べてくれる益鳥です。
旅たのし 椋鳥あまた われとゐて 五所平之助
椋鳥の 譜面なぞれば 秋の歌 ねこたんぽ
※「秋の歌」はチャイコフスキーの「四季」に含まれる曲。憂いに満ちた美しい曲です。
【蔦(つた)】
燃えるような紅葉を見せるナツヅタ。蔦紋は家紋によく用いられますし、絡みついて離れないことから芸妓や花魁が好んで用いたようです。
寂しいと 言い私を 蔦にせよ 神野紗希
つた燃えて かんばせ白き 思ひ人 ねこたんぽ
【野葡萄】
実は本当は白らしいのですが、ブドウタマバエやブドウトガリバチの幼虫が寄生して、虫えいを作ることが多く、紫色や碧色などになります。
野ぶだうの 暗き青さよ 人恋うる 石川文子
【茸】
大型の菌類で子実体を作るものをいいますが、昔の人はシンプルに「木」の「子」、木から生まれてくるものと考えたのでしょうね。
笑ひ茸 食べて笑つて みたきかな 鈴木真砂女
苔の海 抗う如く 茸立つ ねこたんぽ(田万川柱状節理にて)
【カンナ】
夏のイメージが強い情熱の花、なぜか秋の季語になっています。
カンナ枯れ 風に鳴ること だけ残る 加倉井秋を
【京女鷸(きょうじょしぎ)】
夏にツンドラ地帯で繁殖、冬はオーストラリアなど南方に渡る鳥で、日本では春秋に見ることが出来ます。
英名はTurnstone(石転がし)。甲殻類や貝などを食べているようです。
石めくり 東男を 捜しけり にゃはさん作の「なぞなぞ野鳥俳句」
※ 野鳥の特徴を捉えた楽しい俳句です。これは東男に京女、石をひっくり返して餌をとる習性を詠んでいます。他の鳥の俳句も「なぞなぞ野鳥俳句」で検索して是非ご覧下さい。
【栗】
ブナ科クリ属の落葉高木。英名はChestnut。いがの中の果実がいくつかに分かれている様子を部屋(Chest)に見立てて。雌雄同株、雌雄異花で、ブナ科では珍しい虫媒花です。
栗むきぬ 子亡く子遠く 夫とふたり 及川 貞
【秋の水】【水澄む】
冷たさと共に透明度を増す秋の水。ひっくり返して【水の秋】も季語となっています。
真青なる 葉を沈めをり 秋の水 阿部みどり女
水澄んで 真実の青 残りけり ねこたんぽ(別府弁天池にて)
【秋の野】【花野】
花咲き乱れる野も良し、荒れ野も良し。
爪先から 淋しくなりぬ 大花野 山岸由佳
秋の野に 叫んでみても 唯独り ねこたんぽ(えびのにて)
【露草】
朝咲いた花が昼しぼむことが朝露を連想させることから「露草」と名付けられたという説がある。英名の Dayflower も「その日のうちにしぼむ花」という意味を持つ。古くは「つきくさ」と呼ばれ、転じてツユクサになったという説もある。「つきくさ」は月草とも着草とも表され、元々は花弁の青い色が「着」きやすいことから「着き草」と呼ばれていたものと言われているが、『万葉集』などの和歌集では「月草」の表記が多い。この他、その特徴的な花の形から、蛍草や帽子花、花の鮮やかな青色から青花(あおばな)など多くの別名がある(Wikipediaより)
人影に さへ露草は 露こぼす 古賀まり子
蛍草 蒼い焔の 明滅し ねこたんぽ
【こすもす】
キク科コスモス属の一年草。群生して風に揺れる様は秋の代名詞となっています。
コスモスと 少年ほかは 忘れたり 藤村真理
【黄脚鷸(キアシシギ)】
京女鷸と同じような渡りをする、脚の黄色いシギです。見られる場所も同じです。
黄脚鷸 こともなさげに テラ翔る ねこたんぽ
※「事もなげ」が文法的には正しいのですが、この鳥が若そうなので敢えて若者風の言葉で「なさげ」としました。
【葡萄】【ピオーネ】
ピオーネは黒葡萄の一種。名前は、「開拓者」という意味のイタリア語に由来するそう。名産地の広島県三次ピオーネ生産組合は「黒い真珠」を商標登録しています。
密密と 隙間締め出し ゆく葡萄 中原道夫
約束の 地の実りかは 黒葡萄 ねこたんぽ(友より来たる三次のピオーネによせて)
【数珠玉(じゅずだま)】
ハトムギの原種で、水辺に生えるイネ科の大型多年草。
数珠玉や かごめの鬼が 嫁にゆく 高橋酔月
【秋の川】
同じ川でも秋は寂寥感が漂います。
雲映じ その雲紅し 秋の川 藤沢周平
遊び女の 涙集めて 秋の川 ねこたんぽ(岡山市中島地区にて)
※みどりのまとめ「晴れの国の闇」をご覧下さい。
【櫨紅葉(はぜもみじ)】
櫨の木の紅葉は格別な情趣があります。
なほざりの 鉢とて急ぐ 櫨紅葉 外山智恵子
水もまた 燃ゆるものとし 櫨紅葉 桑田青虎
【秋の蠅】
煩く飛び回る蠅も気温が下がるにつれ日だまりでじっとしていることが増えてきます。
秋の蝿 日向日向へ 身をずらす 大崎紀夫
【行く秋】
足早に過ぎ去ってゆく秋。
行秋や でゞむし殻の 中に死す 森鴎外
ゆく秋を 背負いて去りし 猫独り ねこたんぽ
今回も楽しんで頂けたでしょうか?
季語シリーズはまだまだ続きます。
毎月19日の《GS俳句》の日もよろしくお願いします。
真っ赤な、蔦と美しい奥さまの、色白なお顔
日常の平和な風景ですね