季語は四季折々の風情を愛でる日本文化の象徴です。季語に含められる動植物を中心に、写真付きの俳句歳時記風にまとめた「季語シリーズ」、今回は秋の第十回です。猫凡という俳号で自作の句を入れています。
【秋桜】
コスモスの異名。コスモスと読むもあきざくらと読むも可。形は桜には似ていませんが、風に揺れる儚げな風情は似ていると言えなくもない?さだまさしの名曲、山口百恵の名唱でこの花のイメージが決定付けられた気がします。
風つよしそれより勁し秋桜 中嶋秀子
秋桜現在確かに此処に在り 猫凡
【葛の花】
七草として大切にされてきたクズも今や厄介な雑草の代表のように見なされています。花はいかにもマメ科で、濃淡の赤紫が美しいものです。
わが行けばつゆとびかかる葛の花 橋本多佳子
密やかに紅さす君よ葛の花 猫凡
【青蜜柑】
蜜柑は冬の季語。熟す前の青い実が秋の陽射しに照り映える風情が青蜜柑です。
青い蜜柑を朝からたくさんもらつた 尾崎放哉(句稿より)
あの日あの娘も見上げたか青蜜柑 猫凡
【秋の風】
風は季節によりその趣を全く異にします。秋風といえばまずは物哀しさ、あはれでしょう。しかし、うだるような夏が過ぎて活力蘇る爽やかさもまた秋風の情趣。風は千変万化するものです。
庭十歩秋風吹かぬ隈もなし 正岡子規
秋の風青春の日々我に無し 猫凡
【刺虫(いらむし)】
イラガの幼虫で、毒の棘を持ち、刺されると電撃痛が走ることから電気虫などとも。形、色とも美しいものが多いけれども近づき過ぎには要注意。
野仏の前いらむしに螫されをり 加藤楸邨
いらむしの落ちて騒ぐは我ばかり 猫凡
【曼珠沙華】
有毒であり亡骸を獣から守るため墓場に植えられることが多かったようで、血のような赤と相まって、どこか不吉な、陰のイメージがつきまとう花です。白やクリーム色だとまた印象が違います。
曼珠沙華はがねの力もてひらく 北さとり
憎しみを捨てたか白き曼珠沙華 猫凡
【蛇笏忌】
10月3日、明治~昭和時代の俳人・飯田蛇笏(いいだ だこつ、1885~1962)の忌日。伝統的俳句の立場から河東碧梧桐(かわひがし へきごとう)らの新傾向俳句を批判した硬骨漢です。私はどちらも好きですが。
伯母逝いてかるき悼みや若楓 蛇笏
赤錆の街で蛇笏をふと思ひ 猫凡
【天高し】
秋は大陸由来の乾いた高気圧がやって来ます。空気中に水蒸気のような大きな粒が少ないと、青い波長が散乱しやすくなって青が濃く見えます。また、秋は夏に比べて空の高い領域に雲が形成されます。これらの理由で空が高く感じられるのですが、暑さにうだって俯いていた人が、涼しくなって元気を取り戻すと上を見るようになることもあるのではないかと考えています。
天高く高層ビルの檻にゐる 伊藤実那
亀見上ぐ丸き天蓋秋高し 猫凡
【鰯雲】
巻積雲の俗称。空高く小さな雲が無数に並び、あたかも小魚の大群のように見えることから。雨の降る前に現れやすい。
岩手けん岩手ちょうあざ鰯雲 山口剛
子を喪くし猫彷徨えり鰯雲 猫凡(松山俳句ポスト中級者並選句)
【水引】
全国で普通に見られるタデ科の多年草。小さな花をパラパラと付けます。花弁はないのですが、萼が紅白でよく目立ちます。
水引草目が合ひて猫立停る 石田波郷
水引の在処は光集う場所 猫凡
【岩沙参(いわしゃじん)】
関東・中部地方の渓流沿いに自生するキキョウ科多年草。細い花茎の先に俯く紫の花が趣深く、草物盆栽として好まれています。
下関の暑い夏を越し岩沙参開く
滴りて溪風(たにかぜ)吹くや岩沙参 猫凡
日毎に花数を増し、色の濃くなる岩沙参。
紫の日毎に深し岩沙参 猫凡
【鵙、百舌鳥(もず)】
日本最小の猛禽。晩秋になると民家の近くにやって来て高らかに囀り縄張りを宣言、獲物を枝に刺して干物にする早贄は有名。
鵙遠音魚板打ちても応答なし 景山筍吉
※ねこ流解釈:魚板は禅寺にあるもの、クリスチャンの景山が訪れるのだから悩みは深かろう。いくら叩いても応答(いらへ)はなく、ただ遠くで百舌鳥がけたたましく鳴いているばかり。お前の悩みに答えは無いと嘲るが如きか。
一声で夏を吹き去り鵙来たる 猫凡
【小灰蝶(しじみちょう)】
春あるいは秋の季語とされる小さな蝶。ヤマトシジミ、ベニシジミは最も身近な蝶でしょう。
しじみ蝶庭の何處かに飛んでゐる 高澤良一
花咲けば何処からとなくしじみてふ 猫凡
自由律に改作して。
咲き始めるやしじみてふ 猫凡
【秋の海】
海水浴客の姿が消え、「誰もいない海」となる。同じ海でも物寂しさが漂います。
波音の平たくなりぬ秋の海 和田順子
また一人友の去りしや秋の海 猫凡
【秋の波】
寂しい浜辺に寄せては返す静かな風情が本意でしょう。もちろん土用波、三角波など大きくうねる波も秋には生じるのですが。
砂噛んで果つるほかなし秋の波 鈴木真砂女
二人して何するとなく秋の波 猫凡
【木犀(もくせい)】
モクセイ科の常緑樹で、香り高い花を年に一週間だけびっしりと付けます。中国名は桂花。花の香りが遠くまで及ぶことを詠んだ中国の詩人の言葉から「七里香」「九里香」「十里香」とも。
夜霧とも木犀の香の行方とも 中村汀女
項垂れし者の頭を上げさせて既に地に落つ木犀の花 猫凡
【身に沁む】
秋の風や寒さで、もののあはれを身体深くかみしめるような感覚。
亡くなるとは無くなることと身にしみて 染谷栄都子
生きるとは今在ることと身に沁みて 猫凡
【秋の夕】【秋夕焼】
秋の夕暮れ時のことですが、釣瓶落としというように、刻々と移りゆくグラデーションの見事さ、家路を急かされるような心持ち、センチメンタリズム、様々なものを込められる季語だと思います。
爼に流す血黒し秋夕焼 桂信子
急ぎても家に彼無し秋の夕 猫凡
【藤袴】
キク科の強健な多年草で七草の一つ。葉や茎を揉むと桜餅のような香り。花は言わずと知れた浅葱斑の恋人。
すがれゆく色を色とし藤袴 稲畑汀子
藤袴夜通しそこで光りしか 猫凡
お楽しみ頂けたでしょうか?季語シリーズは能う限り続けていくつもりです。次回もどうぞお付き合い下さいね。
楽しく読ませて頂きました~😆🎶
また写真が素敵で…(*´▽`)💕
いらむし落ちてきました!?😨💦
思わずギャー💦ですよね 😱ブルブル
でも色も模様も美しいんですよね~✨
恐る恐る見る🙈💦
松山の俳句ポストに投句されましたか~?(*>∇<)ノ🎶
で、中級者判定されたということで?
ヤッター😉👍️⤴️
私は投句したことがないので客観的なところがわからずで…何かしてみようかしら?🤔
子を失くした猫の句、良いですね。
鰯雲が効いていると思いました 😌💓
シジミチョウの最後の句も好きです。
まるでシジミチョウが咲き始めたようで 😊💕